何の川? もしや・・・
気付くと、霧に包まれた様な、何もない、誰もいない、「無」の世界にいた。
「ここはどこだろう? 初めて来た場所?」 と考えながら、なぜか前進した。
遠くから人の声が聞こえてきた。
何もない、誰もいない、寂しい場所だったから、
とりあえず、誰でもいいから、人の声が聞こえたことが嬉しくて、近寄ってみた。
男の人が立って、手招きしていた。
結構なイケメンだったので、そそくさと近づいてみた。
イケメンは、彼の手をとり一緒にひとつずつ川を渡る度に、
ひとつずつ夢を叶えてくれると約束した。
川は全部で10個あるから、夢を10個叶えてくれる。
結構気前のいいお兄さんだと感心しながらも、
なぜ、見ず知らずの私の夢を10個も叶えるつもりになったのか、
とても気になってきた。
お兄さんが、私の手をガッチリつかんできた。
イヤン、お兄さんったら、ガッチリ手を掴んじゃって、
と思いながら、なんだかちょっと嬉しかった。
お兄さんがガッチリと私の手を掴んで、一つ目の川を渡ろうとした。
「ちょっと待った!」ゆめこは叫んだ。
「お兄さん、どうして見ず知らずのゆめこの夢を10個も叶えてくれる気になったの?」
お兄さんは、ゆっくりと振り向いた。
「おまえの魂が・・・」とか何とか言いだした。
目がつり上がって、歯が2本だけ長くなってとがっていた。
さっきと顔が違う。
まるで、ドラキュラ!
瞬時にここまで変身するとは、結構やるな
血を吸われて骨と皮だけになるのは、まっぴらごめんだと思った。
いきなり背中に真っ黒な大きな翼を突然広げて、
ゆめこの手を掴んだまま飛び立とうとした。
飛ぶことも出来るんだと思った。
もはや、イケメンの面影はなくなった。
さっきまで、イケメンに手を掴まれて、
ちょっとは嬉しかったゆめこの心を返せと思った。
ゆめこは思いっきりこいつの腕に噛みついた。
「イテッ!」と叫んで、ゆめこの手は解放された。
ゆめこは真っ逆さまに落ちた。
10分位落ち続けていた感覚だったから、
落ちた距離は1,000,000kmとか、もっとだったかもしれない。
気付いたら、母がゆめこの顔を覗き込んでいた。
「早く起きなさい!」とお尻をぶたれた。
今日も母は最強だった。